どうして妊婦は便秘になりやすいのか
妊娠中にはホルモンバランスが大きく変化します。そのホルモンバランスの変化が腸の運動に影響を与えることがあり、便秘になる妊婦さんがいらっしゃいます。また「つわり」などのトラブルにより、水分や食事が不足したり、運動量が低下したりすることが、便秘の原因となる場合があります。
《妊娠時のホルモンの影響による便秘のメカニズム》
妊娠中に上昇するホルモン(主にプロゲステロン)により、
①便から水分が引き込まれ、硬い便になります。硬い便は排出しづらくなったり、残便感をもたらします。
②プロゲステロンの作用で腸のぜん動運動(便を排出しようとする腸の動き)が抑えられ、便が腸の内部にたまり、便秘になります。
・水分摂取が減ることでも便は硬くなり、排出しづらくなります。
・運動量の低下も上記のような腸のぜん動運動の低下を引き起こします。
《食事量の低下や偏った食事による便秘のメカニズム》
食事量の低下や食物繊維の不足で、便が小さくなり、腸を刺激できないため、腸のぜん動運動による排便が滞り、便秘になります。
次はこれらが原因の便秘の対処法をご紹介していきます。
便秘をどうやって防ぐか
上記の図でご説明した通り、妊娠中の便秘の多くは、妊娠によるホルモンバランスの変化やつわりなどによる食生活・水分摂取量の変化により引き起こされます。
ホルモンバランスは自分の意思で調整できないですし、重度のつわりになると食事はおろかお水を飲むのも辛いですよね。
この項では、お薬を使わずに生活習慣の改善で便秘を防ぐ方法をご紹介します。ご自身が取り組めるものがあれば、参考にしてみてください。
食生活の改善
食物繊維を意識的にとること、水分をこまめにとること、発酵食品(ヨーグルトなど)をとることで便秘が改善される場合があります。よって、これらの食生活の改善に、無理のない範囲で取り組んでみてもよいかもしれません。
食物繊維は、①不溶性食物繊維と②水溶性食物繊維の2種類をバランスよく摂取することが大切です。
①不溶性食物繊維
キャベツ、レタス、エリンギ、大豆など
②水溶性食物繊維
大根、わかめ(※注1)、りんご、いちごなど
※注1)わかめ、ひじき、こんぶなどの海藻類は、水溶性食物繊維を多く含みますが、ヨウ素も多く含みます。妊娠中におけるヨウ素の大量摂取は、赤ちゃんの甲状腺機能低下を招く可能性が指摘されています。そのためとりすぎに注意が必要です。
①②不溶性、水溶性の両方の食物繊維を含むもの
ごぼう、にんじん、アボカド、納豆など
運動で改善する
妊娠中は体調の変化も生じやすいため、無理のない範囲で体調の良いときにストレッチなどを行うと良いでしょう。運動やストレッチを行う前に、主治医に相談しておくと安心です。
妊娠中に下剤は使えるの?
現在、下剤はドラッグストアなどで販売されており、身近で手に入りやすいお薬として認識されている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その市販されている下剤の中には、妊娠中に使用しづらいものが多く含まれます。また妊娠前に病院でもらった下剤も、中には妊娠中は服用できないものがあります。
そこで、ここからは妊娠中に使用できる下剤(代表例)をご紹介します。
※こちらでご紹介する下剤は実際に病院で妊婦さんに処方されているものですが、服用する下剤の錠数やタイミングなどは、医師と相談の上、服用していただければ幸いです。
またご紹介する下剤が、相互作用を示す場合もあるので、今お薬で治療中の疾患をお持ちの方には注意が必要です。
酸化マグネシウム(マグミット®)
副作用や耐性が生じにくく、妊婦さんにも使用できるお薬です。
酸化マグネシウムは、腸管内へ水分を引き込むことで、便をやわらかくし、排泄を促します。
酸化マグネシウムの効果は個人差が大きいため、排便状況に応じて飲む量を調整していきます。
また一部の抗菌薬や骨粗しょう症のお薬と相互作用を示します。治療中の疾患がある方は、特に注意していただき、自己判断で酸化マグネシウムを開始せず、医師や薬剤師に相談するようにしましょう。
まとめ
今回は妊娠中の辛い便秘の症状について確認しました。
便秘の原因はホルモンバランスの変化やつわりによるものなど、取り除くことが難しい原因ばかりのため、妊娠中でも意識できる生活習慣の改善や、代表的なお薬についてご紹介しました。
その他、妊娠中のお薬の内服について、相談できる機関(「妊娠と薬情報センター」https://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.html)もありますので、不安な方はご利用されても良いかと思います。
便秘以外の体調の変化も多々ある妊娠中ですが、ひとりで抱え込まず、主治医に相談するなどで、少しでも快適に過ごせればいいですね。
【参考文献】
「初めての妊娠・出産新百科」
「薬が見える Vol2」
「薬が見える Vol3」
「治療薬マニュアル2022」
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